June 2016

Volume 31 Number 6

ちょっとひと言 - UX の楽しみ

David Platt | June 2016

David Platt10 年前、当時のプログラムの UX の欠点について取り上げた『Why Software Sucks』という書籍を出版しました。これで世界を救えると考えたのですが、何も変わりません。「この本で指摘した問題をどうして解決しないのか」と開発者に問い質したところ、「方法がわからないし、忙しすぎる」という答えが返ってきました。

問題の解決をマイクロソフトに依頼しましたが、未だ解決されていません。マイクロソフトは、製品重視の立場から機能の実装方法については詳しく説明しますが、機能を使用すべきタイミングと使用すべきでないタイミングについてはほとんど触れていません。マイクロソフトがそのようなガイドラインを提供している分野はありますが、自社のアプリがそれとは正反対の対応をしているため、ガイドラインが台無しになっています (2013 年 5 月のコラム (msdn.com/magazine/dn198249、英語) 参照)。

もうたくさんです。もうじっとしていられません。こうした問題をどちらも解決して世界を救うために、もう 1 冊本を書きました。『The Joy of UX』というタイトルで、先月 Addison-Wesley から出版しました。タイトルが『The Joy of Sex』に似ているのは偶然です。

このタイトルは『The Joy of Cooking』をもじったもので、内容も見習いました。この本は料理についての知識がまったくない読者向けに書かれており、「コンロに向き合います」という記述から始まることで有名です。ある書評家は、この本の対象読者を「忙しく、料理について興味があるわけでもないが、最小限の努力で一気に成果を得たい人」と評しています。

これって、このコラムの親愛なる読者の皆さんのことではありませんか。UX を強化すれば、収入が増えることはわかっています。しかし、UX 専門の部署を作るリソースはありません。会社に UX 部門があったとしても、その部門から注意を受けることはあまりありません。UX の腕を上げられるかどうかは、最前線のコンピューターおたくである、皆さん自身にかかっています。Alan Cooper の『About Face』を通読したいと願っても時間はありませんし、同書の説明は細かくて応用するのが大変です。

心配要りません。私に任せてください。『The Joy of UX』は短く、たったの 212 ページです。この本には、20% をマスターして 80% の結果を出すという原則を採用しています。それを 7 つの簡単なステップにまとめ、それを総称して (持ち前の謙虚さから) 「Plattski UX Protocol」と名付けました。そのステップはこうです。対象ユーザーを考えます。そのユーザーが解決しようとしている問題を考えます。スケッチ エディターで大まかなモックアップを作成し、実際のユーザーや代表的なユーザーで試します。結果に基づいてモックアップを変更します (さらにいくつかの簡単なステップを実行します)。問題点を洗いなおします。これを繰り返して、利益につなげます。

最後の 2 章はケース スタディで、これらの原則を 2 つの実際のプログラム (MBTA 通勤用鉄道モバイル アプリと Beth Israel Hospital の PatientSite.org Web サイト) に当てはめています。早速ご購入くださった読者から、このケース スタディが良かったという感想をいただいています。joyofux.com (英語) では、本書のサンプル 1 章分とその他のケース スタディをご覧いただけます。

他の著書は、特定のテクノロジを対象としたもので、それらのテクノロジが古くなると本の効力も衰えてしまいます。しかし、『The Joy of UX』は違います。同じ原則 (したがって、同じ開発ステップ) を、プラットフォームを問わずすべてのアプリケーションに応用できます。Xamarin、HTML5、Windows フォーム、VB6 のどれを使用しているかは関係ありません。ユーザーを幸せにするために、装飾の多いグラフィカル環境にアップグレードする必要はありません。この本に記載しているとおりに、ユーザーの声に耳を傾けてください。

何よりもまず、これらのステップを開発プロセスの早い段階で始めてください。「アーキテクチャが完成したら UX に取り組む」という習わしのあるチームがたくさんあります。2011 年 9 月のコラム (msdn.com/magazine/hh394140、英語) で書いたように、UX がアーキテクチャです。ユーザーを巻き込まない限り、ユーザーが必要とするものや望むものはわかりません。アプリの基本的な機能セットは常に変化します。ユーザーが最初のモックアップに反応した後、劇的に変化することもあります。

本当に現状から脱却したいのであれば、個人的に指導します。皆さんの会社に出向き、皆さんのプロジェクトに合わせて『The Joy of UX』のステップを説明する速習ワークショップを開催します。夏は閑散期なので、9 月 1 日までなら半額で結構です。本書の Web サイトをご覧のうえ、お電話ください。

『The Joy of Cooking』は 1936 年から版を重ね、1 ~ 8 版で、1,800 万部以上売れています。『The Joy of UX』は内容を最新に保っていけば、私より長生きするでしょう。本書の元となった『The Joy of Cooking』が Irma Rombauer から娘の Marion Rombauer Becker に引き継がれたように、本書も私の娘たちが引き継いでくれるものだと思います。ユーザーに向き合いましょう、皆さん。


David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。