April 2016

Volume 31 Number 4

新進気鋭 - 平凡な人々

Krishnan Rangachari | April 2016

キャリアを積み重ねる中で、特別な存在でありたいという思いは強く、すべてのことにおいて、最も優秀で、最も若く、最も賢く、最も努力家であろうと努めてきました。

ですが、奇妙なことに気付きました。成果を勝ち取った瞬間は興奮し、それを楽しむのですが、やがて、その成果はまるで自分のものではないと言わんばかりに拒絶するようになります。謙そんではありません。心のどこかで、他人の人生を生きている幽霊になったように思えるのです。自分の中に潜み、賞賛を受けている人がだれなのか本当にわからなくなります。

やがて、苦しさを感じたくないから、特別であろうとするのだと思うようになりました。自分を大きく見せることが、自分は価値のない人間だと感じなくて済む唯一の方法だったのです。

精神的苦痛を感じなければ、特別な存在になろうと仕事に打ち込む必要もないことに気付きました。自分の平凡さを受け入れることができれば変われるのではないかと考えるようになり、いくつか実験してみました。

まず、以前は魅力を感じなかった地味なプロジェクトを引き受けるようにしてみました。すぐに心惹かれるようなプロジェクトではありませんが、自分のスキルと専門知識が必要とされるプロジェクトです。こうしたプロジェクトで他のメンバーのサポートに徹します。

こうすることで、どのような仕事も、名誉を求めなくても喜びを感じられることを理解しました。このことをきっかけに、私の心は変わり始め、「名誉を求めなければ、精神的苦痛は感じないのではないか」と考えるようになりました。

次に、謙虚さと沈黙を新たな形で表現するようにしてみました。(普段は喜んで担当する) プロジェクトのプレゼンテーションも、希望する他のプロジェクト メンバーに任せることにしました。メンバーの議論を遮りたい衝動に駆られても、口を出さないように懸命に努めました。

もう 1 つ、期待を上回る成果を上げようと思わないようにしてみました。成績優秀者の伝説的な理想を追い求める生活をやめ、健康に注意し、仕事量を減らしてみました。性格的には仕事に夢中になりやすくくても、仕事を管理する能力はあります。X 量の仕事をこなせば、Y 量の結果が得られることは理解できます。つまり、仕事に逃げ込んでいただけでした。生活を管理する能力がなかったのです。

アクセス全開でのキャリア形成から離れると、自分があまりに現実から隔絶していて、生活の中で感じる苦痛 (家族の問題、人間関係の問題、実存的不安) を仕事で紛らわしていたことがわかりました。成果を賞賛され、昇進や昇給を獲得することで、生活の中の苦痛を和らげていたのです。仕事中毒になるのも当然です。

苦痛を無理やり押さえ込もうとするのをやめると、苦痛自体を根本から癒すチャンスが生まれます。

4 つ目の試みとして、人生の課題に向き合い、自身の根幹にある小ささや無力さを受け入れるさまざまな精神的な習慣 (めい想、祈り、マインドフルネス) を持つようにしました。大役を演じる俳優のような気分で、こうした習慣を実践します。歩く速度や仕事のスピードを落とし、神秘主義者が手がけた書籍を読み、多くの時間を自然の中で過ごします。

スティーブ・ジョブスの跡を継ぐのはあきらめ、ガンジーの人生から受けるインスピレーションについてじっくりと考えます。新しい視点に立つことで、自身も他人も思いやる気持ちが生まれます。特別な存在にならなくても、自身を厳しく責めることなく、愛情深く、忍耐強い平凡な人間になることを考えるようになりました。

5 つ目は、隔絶を助長する人やメディアから距離を置くようにしました。以前は、自分が特別な存在になるためには、他人に苦痛を強いなければならないと考えていました。ですが、人生はゼロ サム ゲームではありません。仕事でどれほど優れた成果を上げても、他のすべての人にはまったく関係ありません。そこで、憎悪、自己愛、自己中心的な考えを取り上げるニュース報道、テレビ番組、書籍、映画をシャットアウトすることにしました。社会から不公平な扱いを受けていると不満を言う友人とは付き合わないようにもしました。

大勢の人々と築くうわべだけの関係ではなく、少数の人々との深く親密な付き合いを始めました。平凡になることとは、自身の過ちを認め、他人の過ちを受け入れることです。優秀であることとは、失敗のない世界を想像し、すべての人々が自分の期待どおりに行動するという空想を追い求めることです。

不愉快な家族、面倒な同僚、変わった友人との距離を縮めるにつれ、そうした人々の問題が (自分の中に) 見えるようになります。愛されることには、自分の過ちは無関係です。場合によっては、そうした人々が要因となることもあります。

自分の最大の弱点だった、精神的苦痛を受けているという感覚が最大の強みになります。自分を思いやり、究極的には真の平凡さを認めることです。


Krishnan Rangachari は、ハッカーのキャリア コーチを務めています。radicalshifts.com (英語) にアクセスすると、彼が提供するキャリア成功キットを無償でダウンロードできます。