2015 年 7 月

Volume 30 Number 7

ちょっとひと言 - 100 年の孤独な遊び

David Platt | 2015 年 7 月

David Platt100 年も前ではありませんが、25 年前の 7 月、マイクロソフトは今日のような巨人になる大きな転換点を迎えました。そう、Windows 3.0 でソリティアをリリースしたのです。

コンピューティング業界の社会史は、それからの四半世紀 (業界全体の歴史の半分に相当)、ソリティアの影響を考えずには語ることができません。『Understanding COM+』(Microsoft Press、1999 年) で私は次のように書きました。「Windows バージョン 1 と 2 は意図に反して失敗しました。....マイクロソフトはこれらの OS を実質的にサンプルとして提供しましたが、それを使う人はだれもいません。....Windows 3 は MS-DOS のマルチタスクを実現し、ソリティアもプレイできるようにしました。これは、その後の歴史の礎となりました」

DOS のマルチタスク実現は、重度のおたくを魅了しました。おそらく、読者の皆さんもその 1 人でしょう。しかし、一般ユーザーを Windows に引き付けたのはソリティアです。ソリティアは、DOS アプリを使用するよりもはるかに簡単でした。マウスでメニューからコマンドを選び、カードをドラッグするだけでプレイできます。よくわからないアルファベットのシーケンスを入力する必要はありません。また、グラフィックには美しい画像が表示され、テキストが高速スクロールして読めないということもありません。なんとすばらしいことでしょう。

ソリティアは、それまでは退屈だった PC が生活に楽しみをもたらすことを示しました。Josh Levin は、オンライン マガジンの Slate に次のように書いています。「黒の 2 を赤の 3 の上に移動すること自体は特に面白いことではありません。しかし、Excel ワークシートの見た目に比べたら、勝利後にカードが鎖のように連なって表示されるのは想像を絶するほど刺激的な光景です」

一度ソリティアをプレイすると、無視できなくなります。電話を待ちながら、仕事の山に取り組みたくないとき、時間や場所を問いません。「ちょっと 1 ゲームだけ。あ、負けちゃった。もう 1 回、負けたままじゃ終われない。よし、勝った。もう 1 回、今度は勝ち越すぞ。あら、産科医から電話がきちゃった。留守番電話に残してもらえばいいか」これが、人々がスマートフォンに手を延ばさざるを得なくなる非常に魅力的な力の最初の例かもしれません。これについては 2012 年 2 月号 (msdn.microsoft.com/magazine/hh781031、英語) で取り上げました。

これが手に負えなくなることもあります。Windows プログラミングのクラス (C の 16 ビット SDK) で教えていたとき、授業を聞かずにソリティアをプレイする学生にイライラしていました。そこで、ラボのコンピューターにブービー トラップを仕掛け、プログラム マネージャの [ソリティア] アイコンをクリックすると、大きな音が流れるプログラムが起動するようにしました。ある学生の PC がけたたましい音を立てたとき、その学生に向かって、「ソリティアをプレイしましたね!」と大きな声で言いました。彼女は顔を赤くして、穴があったら入りたいようでした。クラスの学生はソリティアに触れようとしなくなりました (Joanna、このコラムを読んでいたら、この機会に謝ります)。

ソリティアは、Windows と一緒に進化、成長してきました。1992 年にサンフランシスコで開催された PDC で、開発者に Windows NT が公表されたときのことを思い出します。GCI チームは、カーネル ユーザー モードの遷移によってソリティアの勝利を意味するカードの連鎖表示がどれほど損なわれるかを説明しました。賢いチームは、同時にその回避策も説明しました。この説明がなければ、参加者は愛するソリティアを冒とくしたとして、開発者を窓から放り出していたことでしょう。

マイクロソフトは、Windows のマイルストーンを迎えるたびに、ソリティアのバリエーションを用意してきました。Windows NT に組み込まれたのはフリーセルです。フリーセルはほぼ必ず勝利できるため多くのユーザーに愛されたゲームです。Windows XP にはスパイダーが組み込まれました。スパイダーには、カードをめくった後、[元に戻す] いう裏技があります。Vista には新しいソリティア ゲームが組み込まれませんでした。だから人気がなかったのかもしれません。

ソリティアは Windows 8 には組み込まれていませんが、Windows ストアで無料で入手できます。マイクロソフトはおそらく、オリジナルのデスクトップと同様に、ソリティアでユーザーをストアに誘導できると考えたのでしょう。しかし、愛する組み込みのソリティア廃止を受けてユーザーが取った行動は、ソリティア復活のためにマイクロソフトに働きかけるというまったく別のことでした。スタート メニュー廃止に対する苦情も、ソリティア廃止に対する騒ぎには及びませんでした。Windows 8 がうまく行かなかったのも当然です。マイクロソフトは、ユーザーの要望に応じて Windows 10 で方針を戻し、スタート メニューを復活させます。ソリティアも復活することを期待します。

今回のコラムは楽しく執筆できました。でも、ソリティアは仕事ではありませんから、これで PC からソリティアを削除しなければなりません。でも、調査のためです。もう 1 回だけ。サティアには留守番電話を残してもらいましょう。


David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。