2015 年 8 月

Volume 30 Number 8

新進気鋭 - ゲームの進化

Michael Thompson | 2015 年 8 月

私が生まれた 1983 年、初期のビデオ ゲーム市場が崩壊したことは有名な話です。多くの人はビデオ ゲームが一過性のもので、崩壊するのも当然だと考えていました。しかし、クオリティの高いゲームへの需要に回復の兆しが見え、小学校に入るころには、校庭の片隅でのお気に入りの話題は「Nintendo Entertainment System」でした。それ以来、年を重ねるたびにゲーム業界は巨大化し、主流へと近づいています。2014 年の米国ゲーム業界の売り上げは全世界で 800 億ドルに上り、映画産業の 2 倍を記録しています。

こうしてゲームと共に育った人々が、特に「プロのオタク」となった人々が、自らの手でゲームを作ることを夢見るのは驚くことではありません。しかし、それより多くの人々が、達人レベルのゲーム開発者になる夢を実現するのは不可能だとも思っているのではないでしょうか。

ところが、ゲーム開発の見方と現実は変化しています。かつてゲーム開発は、特別な才能のあるプログラマの独壇場と考えられていましたが、近年では趣味で使えるゲーム開発ツールセットが新たに登場し、多くの開発者に門戸が開かれています。このようなツールセットにより、初期投資をほとんど必要としないで、WYSIWYG エディター、包括的な API、C#、JavaScript、Lua のように初心者が使いやすい言語が提供され、プロのゲームエンジン プログラマと同じエクスペリエンスを享受できるようになります。こうしたツールセットの多くには、3D モデル、アニメーション、SE、便利なスクリプトなど、ゲームのアセットを売買および共有できるマーケットも統合されています。さらには、ゲームを最優先としながらも、広告、教育、マルチメディア芸術の道具としてもその機能を提供しています。

このようなツールセットの中で最も人気が高いのが Unity です。Unity を構成するのは、最新クロスプラットフォーム ゲーム エンジン (現時点では 21 のプラットフォームをサポート) やゲームの世界を作り上げる直感的な GUI、C# と UnityScript (JavaScript に似ている) によるスクリプティングだけでなく、コンテンツ、スクリプト、エディターといった拡張機能についての活気溢れる市場もその一部です。Unity は、年収や年間資金が 10 万ドルを超える組織の一員でなければ、無料で利用できます。加えて、マニュアル、チュートリアル、サンプル プロジェクトも豊富で、質の高いユーザー コミュニティからの恩恵も受けられます。参加することで得られるメリットの多さと、(技術的にも金銭的にも) 参加するハードルの低さから、Unity の人気が高い理由は容易に納得できます。

しかし、Unity だけが選択肢ではありません。他にも人気が高いツールとして Epic Games の Unreal Engine 4 (UE4) があります。このツールセットの前身は大規模ゲーム スタジオ向けに販売されており、価格も相応のものでした。UE4 からはオープン ソースになり、ゲームの収入からわずかなロイヤリティを徴収する方式に変わったことで、小さなスタジオや趣味の開発者を囲い込みはじめています。UE4 のツールセットとワークフローは Unity と非常によく似ていますが、UE は前身がプロフェッショナル向けだったため、Unity よりも性能は高い反面使いづらいと言われることがあります。

他にも、完全無料かつオープン ソースの Cocos2D が人気です。Cocos2D は従来から 2D ゲームに重点を置き、GUI エディターでのコード記述に好まれていました。さらにモノリシックなプラットフォームではなく、C++、JavaScript、Swift などさまざまな言語向けに使い慣れた API 一式を提供している点で高い評価を得ています。Cocos2D はまだまだ Unity や UE4 ほど機能が豊富ではないものの、最近では 3D もサポートするようになり、ゲーム周辺の各種アセットのエディターを統合する Cocos Studio は、競合他社のエディター機能も一部提供しています。

これらのツールセットがレンダリング、サウンド、アニメーション、入力などのテクノロジを担当するため、開発者はゲーム作成のクリエイティブな部分に専念できます。ツールセットによって最適化されたエンジンが提供されるため、最適な C++ のコーディング方法を理解する必要はありません。さらに、ツールセットのカスタム シェーダーによってレンダリングを拡張できるため、Direct3D や OpenGL の知識も不要です。一般的なフォーマットであれば、任意の種類のゲーム アセットをインポートできるので、3DStudioMax からキャラクター モデルをインポートする方法を知らなくても問題ありません。

こうしたツールセットのいずれかを使用して創造力を掻き立てるのに、独別なスキルは要りません。実際には、コンポーネントが相互に動作するしくみを学ぶ意欲、高校数学の知識、中級程度のプログラミング スキルがあれば十分です。これまでゲームを作成したことがなくても、自身が慣れた土壌にかかわるものが多く見つかります。こうしたツールでゲームを作成するのに必要な作業の大半は、プロパティの設定と適切な場所でのコーディングだけです。ゲームに悪役を登場させるのは、Windows フォーム アプリにボタンをドロップして OnClick イベントを処理するコードを書くこととあまり変わりません。

Ryder Donahue は MSDN Magazine5 月号で、初の新進気鋭コラム (msdn.microsoft.com/magazine/dn973009) を執筆し、その号の「編集者より」では次の 1 文が引用されました。「開発者に提供されるツールや使用可能なリソースは、夢の中にあるアプリを現実のものにするのに非常に役立ちます」。この考え方が、ゲーム開発者になりたい人や、クリエイティブな開発者にも当てはまることを、Unity、UE4、Cocos2D などのツールセットが証明しています。1983 年の崩壊から 30 年以上過ぎた今、ゲーム開発空間はかつてないほど活気にあふれ、身近になっています。


Michael Thompson は、Visual Studio チームで C++、グラフィック、およびゲームを作成しているコンテンツ開発者です。彼は DigiPen の卒業生で、gamedev.net (英語) のトップ メンバーです。