ちょっとひと言

Windows Phone 7 アプリケーション成功の秘訣

David Platt

David Plattキラー アプリケーションとは、そのアプリケーションを実行するハードウェアや OS の普及に貢献したアプリケーションのことです。その典型的な例が Lotus 1-2-3 です。ユーザーはこのソフトウェアを使うために IBM の PC を購入しました。性能の低い旧世代携帯電話のキラー アプリケーションは、音声メッセージとテキスト メッセージを扱うアプリケーションでした。このアプリケーションは、世界人口の半分を超える人々のポケットに入っている携帯電話と共に大きな成功を収めました。

スマートフォンにおけるキラー アプリケーションの定義は困難を極めます。2009 年、スマートフォンの売り上げは全世界で 1 億 7,200 万台を突破し、総売り上げ台数の 12 億台 の 14% に達します。

マイクロソフトは、つい先日 Windows Phone 7 を発売しました。多くの批評家は、これは取るに足らないもので、既に手遅れだと片付けていますが、私は、マイクロソフトの無機質で無骨なイメージ (20 年前とは大きく異なっています) が、スマートフォンへの移行を検討している、これまでよりも広いユーザー層に受け入れられるのではないかと思っています。ただし、そのためには、アプリケーションの開発者が、ユーザー層の構成を理解して、その要望に応えなければなりません。

現在スマートフォンを所持しているのは、明らかに、新しもの好きな人たちです。彼らが iPhone や Android を購入したのは、テクノロジ自体を堪能し、コンピューターおたく仲間の中でステータスを誇示して楽しむことが目的です。彼らは、飲み屋で友達と比べて遊べる変な音を出すアプリケーションを 100 以上ダウンロードできるため、iPhone App Store をたいへん粋なものだと考えています。

初期アプリケーションのプログラマは、新しもの好きのユーザーと似ていました。いや、似ているのではなくまったく同じ感性を持っていました。したがって、成功するためには、自身が好むアプリケーションを作成するだけでかまいませんでした。変な音を出すアプリケーションは、そのようなアプリケーションの元祖と考えられる、イースター エッグの側面がどこかにあるのでしょう。ですがこれは、スマートフォンを新しもの好きから主流へと広めるキラー アプリケーションではありません。

スマートフォン導入の第二波は、テクノロジ自体のためではなく、自分の生活を楽にすることをテクノロジに求めるユーザーが中心になります。この波を主導するのは女性です。女性は、自身のため、そして家族との通信を管理する目的でスマートフォンを使用します。8 月号のコラム「火星と金星」(msdn.microsoft.com/magazine/ff898402) で述べたように、女性がテクノロジを使用するパターンと目的は、男性とは異なります。彼女たちにとってのキラー アプリケーションは、新しもの好きのユーザー (圧倒的に男性が多い) にとってのキラー アプリケーションとは大きく異なります。

私の妻は、変な音を出すアプリケーションを見てあきれた顔をしました (10 歳と 7 歳の娘は、そのアプリケーションをとてもおもしろいと思っています。特に、このアプリケーションと対になり、別の iPhone にインストールされている光を灯すアプリケーションと接続するときにそう思うようです。ですが、財布のひもを握っているのは彼女たちではありません)。妻は、ロシアン ルーレットができるアプリケーションの iRevolver を嫌っていて、ビールが画面上に再現されるアプリケーションの iBeer には無関心です。一日中仕事をしたり子供に振り回されたりした後は、「本物のビール」を望んでいます。プラスチックの電話をいじって自分を落ち着かせることができるのは男性のコンピューターおたくだけです。

スマートフォンを購入する現代女性の生活において、重要な要素は何でしょう。それは、「彼女たちは忙しい」ということです。骨の折れる仕事をした後は、子供、ペット、両親、義理の両親、自分自身、そして夫の世話をしなくてはなりません (この順番は重要です)。たとえば、(スーパーマーケットに寄る時間がないので) 食料品を届けてくれるアプリケーション、小児科医 (老人病の専門医、産科医、または獣医) の予約を取ったり医療データを追跡したりできるアプリケーション、子供の所在地と夫の通勤電車の終電時刻を調べるアプリケーション、体操の習い事が終わるまで子供を待つ間に心が和む音楽を聞いたり、子供がバイオリンの練習で響かせる騒音を消したりすることができるアプリケーションが必要です。つまり、新しもの好きの人が喜ぶコンピューターおたく向けの「玩具」ではなく、「道具」を必要としています。

第二波のユーザーは、まったく異なったアプリケーションを求めています。開発者は、Platt の最初にして最後かつ唯一であるユーザー エクスペリエンス設計の法「汝のユーザーを知れ、ユーザーは汝とは違う」に従ったときにだけ、ユーザーを満足させることができます。第一波に強い影響を与えた魅力的なアプリケーションは、第一波よりもずっと大きい第二波を盛り上げることはできません。

David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。