ちょっとひと言

高等教育の水準を高める

David Platt

David Platt10 年以上もの間、これほど秋学期の授業予定が楽しみだったことはありません。ハーバード大学の公開講座で、「CSCI-E34: ユーザー エクスペリエンス (UX) エンジニアリング」という題目の新しい講義を開講する予定です。これは、IDesign 社で教えた業界向け UX 教材を大学向けにアレンジしたものです。講座の副題は、近日出版予定の著書のタイトルでもある『The Joy of UX』(UX の楽しみ) にしました。

受講登録期間終了まで残り 1 週間となったこのコラムの執筆時点 (8 月下旬) で、77 人の受講生の登録がありました。この数字には UX の重要性が認識されるようになってきたことが表れています。UX の重要性について、私はこのコラムの執筆を始めた約 5 年前から主張を続けており、昨年、2010 年代は UX の 10 年 (msdn.microsoft.com/magazine/dn342880) であると宣言しました。UX の時代は始まっています。

受講生は、講義期間全体を通じて、自分で選択した 1 つの UX プロジェクトに取り組み、講義のトピックに沿ってそのプロジェクトを開発します。最終結果として、ペルソナ、ストーリー、仮のレイアウトとストーリーボード、UX テスト計画、テレメトリ計画、セキュリティ分析、プロトタイプ実装などがすべて揃った UX デザイン パッケージが完成します。デザイン プロセスの各段階を実体験に加え、講義の修了時には雇用主になりそうな企業に提示できる魅力的なパッケージが手に入ります。

興味深いことに、受講生名簿の名前から判断する限り、受講生の 25% が女性です ("Lisa" という名前の男性にはあまりお目にかかったことがありません。私くらいの年齢のおじさんは Johnny Cash の名曲「A Boy Named Sue」(スーという名の少年、bit.ly/1un5XFV) を思い出すかもしれませんが)。これほど女性の受講生比率が高いのは、講義をしてきた中で初めてです。2 人の娘 (息子はいません) の父として、これはすばらしいことだと思います。先月のこのコラムに娘の Annabelle が寄稿した意見を、業界がついに意識するようになったのです (掲載されてからあまり時間がかかりませんでしたね)。

私の講義では、グラフィカル デザインは教えません。これは、装飾とも呼ばれるもので、2 年前のコラム (msdn.microsoft.com/magazine/hh394140、英語) で取り上げました。Craigslist はキラー コンテンツ、非常にシンプルな使い方、グラフィックのないデザインによって、単独で新聞業界全体を滅ぼしました (しかし私は、非常に優秀なグラフィック デザイナーをゲスト スピーカーに招き、この論争に反論します)。

私の講義では、実装についても教えません。UX はプログラミングではなく、プログラミングする内容を明確にするためのものです。これは、まったく異なる問題で、解決策を簡単に Google で見つけることはできません。色のグラデーションの実装方法が見つかるのとは別問題です。

社会にはすばらしい UX を用意できる人材がすぐにでも必要なので、陸軍のアイデアを取り入れています。負傷した兵士には即時 (外傷治療の "ゴールデン アワー") の治療が必要なため、陸軍では各小隊に 1 人の衛生兵が所属します。兵士は慣例的に衛生兵を "ドク" と呼びますが、衛生兵は正規の医師ではなく、気道の確保、重度の傷の止血、静脈注射など、負傷兵の容態を安定させるための陸軍のプロトコルを訓練された兵士のことです。

同様に、開発プロジェクト中に生まれる UX に関する疑問も、迅速に解決する必要があります。訓練されていない開発者が、自力で疑問 ("コード 0x80040005 – 不明なエラー") を解決できるわけはありません。

講義では、UX 衛生兵を送り出し、すべての開発チームが 1 人の衛生兵を確保できるようにすることを目指しています。UX 衛生兵は UX デザインの基本概念とその最も一般的な応用を把握しています。たとえば、ほとんどの UX の疑問にとってデータが重要であることや、データの取得開始方法などの知識があります。また、ユーザー ペルソナを迅速かつ正確に生み出す方法を把握しており、開発チームが "ユーザー" というつかみにくい概念を理解する手助けをします。他にも、プロジェクトが停止しないようにユーザビリティ テストを簡単に低コストで行う方法や、テストを省略してプロジェクトを停止させない方法なども知っています。何よりも、早期に始め、プロジェクト中継続するという UX の反復方法を知っています。

(陸軍に実際の軍医がいるように) UX 専門家やその専門家チームがいる場合でも、専門家の時間は非常に限られています。訓練された UX 衛生兵がプロジェクト チームに所属して、簡単な問題を即座に処理し、困難な問題を専門家が処理しやすい形にまとめられたら、専門家にとって大きなメリットになります。

陸軍が衛生兵にプロトコルを提供しているように、私も将来 UX 衛生兵となる受講生の皆さんに指針とテンプレートを用意しました。持ち前の謙虚さから、私はこの組み合わせを「Plattski® Protocol™」と呼んでいます。77 人 (以上) の受講生が、このプロトコルの学習を始めようとしています。

UX の楽しみが広まることをとても心待ちにしています。


David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。