ちょっとひと言

深刻な「首痛」の種

David Platt

David Platt少し前まで、Microsoft.com のホーム ページ (下図参照) は、ユーザーに肉体的苦痛を与えるものでした。この苦痛は、仕事にもっと分別があるはずの、プロフェッショナルの慎重な決断によって引き起こされました。誇張だと思われますか。実際にご覧になってください。

多くのホーム ページのように、中央の表示フレームは、いくつかの特集画面を順繰りに表示します。特集画面の隣には 2 つのタブがあり、現在表示されていない特集へのリンクが表示されています。基本的な考えは良いのですが、この実装はいくつかの点においてひどいと言わざるを得ません。

まず、リンクを表示するタブには、テキストが横書きで縦方向に表示されます。これにより、ユーザーは首をかしげて閲覧しなくてはなりません。さらに、タブと表示ウィンドウは、特集が切り替わるたびあちこちに移動します。2 つのタブが、あるときは左側に、あるときは両側に、そしてあるときは右側に移動します。

このデザインは、「Plattski の最小限のカイロプラクティック法」に反します。この法では、カイロプラクティックの治療を必要とする傷害をユーザーに与えることは、ユーザーを幸せにしないので、できる限り避けることと定められています。論文審査のある「Journal of the Canadian Chiropractic Association (カナダ カイロプラクティック協会誌)」が発表した、一般大衆の首の痛みについての研究 (tinyurl.com/2972ea5、英語) によると、成人の 54% が過去 6 か月に首の痛みを訴え、ほぼ 5% が生活に支障をきたすほどの首の痛みを経験しているとのことです。マイクロソフトは、ユーザーの身になって (または、ギプスになって) 考え直し、この無意味な行為をやめるべきです。

以前、あるマイクロソフトの Web 設計者が、私に「まるで本みたいで、かっこいいでしょう。何の問題があるのですか」と言ったことがあります。問題はまさにそこにあります。本のタイトルが縦書きになっているのは、本そのものを保管するときに最も便利な形だからです。つまり、物理媒体によって強いられる妥協案というわけです。物理的制約が当てはまらない仮想世界にそれを持ち込んではいけません。

被害は、首の痛みだけにはとどまりません。タブと表示ウィンドウは、表示トピックを順繰りに表示するたびに、あちこちに飛び回って混乱を引き起こします。最初、表示領域は左側にあり、2 つのタブがその右側に配置されます。7 秒後に表示領域は 1 つ右に移動し、タブが両側に配置されます。さらにその 7 秒後、表示領域はもう 1 つ右に移り、2 つのタブの位置が左側に移ります。最後に、表示領域は左に 2 つ移動して、最初の位置に戻ります。

Microsoft.com homepage screenshot

ユーザーは、画像が切り替わるたびに、表示ウィンドウの位置をとらえ直さなくてはなりません。また、クリックしたいリンクが左側にあると思ったら、今度は数秒後にそのリンクが右側に移ったりするため、混乱を招きます。この主要ナビゲーション構造は、まるでもぐら叩きゲームのようです。

なぜマイクロソフトの Web 設計者はこのようにしたのでしょうか。おそらくは、このように機能するあらかじめ作成されたコンポーネントがツールキットに含まれていたのだと思います。そして設計者は、ただそこにあるからという理由で、ツールキットの中からそのコンポーネントを選んだのでしょう。まるで、クリスマス プレゼントに組み立て式のおもちゃを手に入れた 6 歳児のようです。「ママ、こんなのができたよ。かっこいいでしょう」。

大人に肉体的苦痛を与えることは、かっこいいことではありません。肉体的苦痛には、幼い子どもたちから与えられるたわいのないものから、医療ミスによる最悪のケースまであります。これは、マイクロソフトが 1990 年代初頭につけた稚拙なイメージで、現在、必死になって取り除こうとしているものです。それでも、焼け石に水です。

順繰りに表示されるリンクを含む特集画面は、もっと少ない苦痛で、より楽しく達成できるはずの目標です。MSN の「ビューティスタイル」のページは、その一例です。ユーザーが首をかしげる必要はありません。表示領域もリンクも、いつも同じ場所にあります。メイン サイトの設計者にとってはかっこよさが足りないとしても、これこそが使いやすいページです。

追記: このコラムを提出した週 (9 月 20 日)、マイクロソフトは大幅に改善されたデザインを公開しました。特集のトピックは、別のパネルにまとめて表示されます。領域に動きはなく、非表示のトピックを表示するリンクが必要なくなりました。おそらく、このコラムが流出し、設計者が自分たちの罪を理解したに違いありません。ただ、この飛び回る、ユーザーの首をかしげさせるデザインを見たのは 2009 年の 4 月なので、その間にも、多くのユーザーが悩まされ、混乱させられてきました。ですが、皆さんはもう悪質なデザインに対する警戒心を持っています。このデザインを元に戻せば、いつでも設計者を非難する構えはできています。

「ユーザーの首をかしげさせ、表示領域やリンクをあちこち移動させることには、ユーザーを幸せにし、生産性を高める理由がある」とお考えのサイト設計者がいらっしゃれば、このコラムにご意見をお寄せください。

David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。