実践的なユーザビリティ

収束の 10 年間

Dr. Charles B. Kreitzberg

2010 年を迎えました。2000 年問題を解決して無事 21 世紀に入ってからもう 10 年も経ったなんて信じられません。私が今後 10 年を予測すると、いつも的中しているように思えます。そこで、ユーザー エクスペリエンスの分野がどのように変化し、それは何を意味するのかについて、私の考えをいくつか紹介しましょう。

今後も求められる雇用

私が所属しているユーザー エクスペリエンスを扱う組織の一部では、話し合いを行うのにメーリング リストを使用しています。受信トレイが大量のコメントであふれかえるのが嫌になる日もありますが、話し合いを流し読みするのが業界動向を把握する優れた方法だとわかっていうので、メーリング リストに登録しています。

そこで目にした中で驚いたことの 1 つは、投稿されている就職情報の数です。1929 年以来の最悪の不況のさなか、企業はかなりの人数のユーザビリティの専門家、対話のデザイナー、および情報アーキテクトを採用しようとしています。

長年の間、ユーザビリティとユーザー エクスペリエンスの業界は、可視性と信頼性の実現のために奮闘してきました。このような不況の時代でも積極的な雇用があるという事実は、業界がその妥当性を論証してきたことを示し、現在でも対話型製品の開発の重要な要素として考えられているということがわかります。  

インターネットの日常化

企業戦略においてユーザー エクスペリエンスの重要性が高まったのは当然のことです。ここ 10 年間で、個人向けのデジタル テクノロジは急成長を遂げました。その多くはスマートフォンの市場に見受けられます。現在、米国内でのスマートフォンの普及率は、成人モバイル ユーザーの 29% と推定されています (blog.kelseygroup.com/index.php/2009/11/17/mmv-us-adult-smartphone-penetration-29-yes-really/、英語)。

書籍の形態とキンドル形式の両方で販売されている本 100 部のうち、キンドル形式が 48 部も売り上げているという Amazon の報告は、テクノロジが日々のエクスペリエンスの一部となってきたことを顕著に示しています (msnbc.msn.com/id/33208339/ns/technology_and_science-tech_and_gadgets/、英語)。

さらに、現在、非常にたくさんの人々がソーシャル メディアに参加しています。Facebook は、会員が 3 億人にまで増加したことを最近発表しました (blog.facebook.com/blog.php?post=136782277130、英語)。Forrester Research Inc. の最近の調査によると、Web アクセスを利用しているアメリカ人の 80% 以上がなんらかのオンライン ソーシャル コンテンツに参加しており、アジア人も同様の割合ですが、ヨーロッパではやや低めであることがわかりました (blogs.forrester.com/groundswell/2009/08/social-technology-growth-marches-on-in-2009-led-by-social-network-sites.html、英語)。また、コンファレンス ボードによると、現在米国家庭の 25% 近くが見たい番組をストリーミングまたはダウンロードしてオンラインでテレビを視聴しています (mediabuyerplanner.com/entry/45030/study-two-thirds-of-households-watch-online-tv/、英語)。

以上の統計から、私たちが次の段階に進んだことがわかるでしょう。Web が多くの人々の日常生活において、重要でありながらも、ありふれた存在になっていることは明らかです。どこからでも Web にアクセスできるようになった理由の 1 つがスマートフォンの普及です。スマートフォンには十分なコンピューター処理能力と記憶域が搭載されており、ほぼ常時持ち運ぶことができます。ユーザーは 2 年ごとに携帯電話を替える傾向があるため、スマートフォンが急速に標準になりつつあります。少し大きめのサイズが必要であれば、ネットブックや電子ブック リーダーをかばんやバックパックに滑り込ませることができます。もっと高度なコンピューターが必要であれば、ノートパソコンを持ち運ぶことができます。自宅や職場で DVR を使用して、壁に取り付けられた大きなモニターにオンライン ビデオをストリーミングできます。このようなデバイスはすべて消費者環境でもビジネス環境でも役に立ちますし、いつでも Web に接続することができます。

目まぐるしい変化

では、このようにインターネットが日常化することで何が起こるでしょう。

少なくとも、現在、企業はユーザー エクスペリエンスに重点を置くことにビジネス価値を見出しています。デザインとユーザビリティを徹底的に追求した結果、記録的な収益を上げた Apple Inc. は、ユーザー エクスペリエンスを重視している法人の CFO を納得させてきました。収益を上げる機会やユーザー エクスペリエンスで競う必要性が生まれたことが原因で、受信トレイが非常に多くの就職情報であふれかえるのかもしれません。

このような就職情報の中でも興味深いのは求められているスキルです。約 30 年前、この業界に入ったとき、私のようにプログラミングの経歴を持っているのは珍しいことでした。この分野で実践を積んでいたのは、ソフトウェアに興味がある心理学者がほとんどでした。その結果、開発チームとどのように意思疎通を図るかを理解することに特に力を入れることになりました。

現在、このような職業の大半には、ある程度の技術スキルが求められます。少なくとも、CSS や JavaScript の能力は必要でしょう。場合によっては、求められているスキルから、従来のようなユーザビリティの専門家ではなく、開発者の方が向いているかもしれません。これはユーザビリティやユーザー エクスペリエンスに興味がある開発者にとっては絶好のチャンスと言えます。技術スキルと人間性の両方をアピールすることができます。

今後は、扱うユーザー エクスペリエンスのモデルはますます複雑になると考えられます。約 30 年前、このような問題をちょうど考え始めた頃、最も関係が深かったのは人間工学の分野でした。人間とコンピューターの相互作用 (HCI) に注目が集まりましたが、これは通常 1 人のユーザーと 1 つのデバイスに限られたものでした。しかし、現在、コンピューターはコミュニケーションやコラボレーションに使用されるため、これまで以上に幅広い人間とデバイスの対話を考慮しなければなりません。設計する対話の多くは人間どうしの対話で、これはコンピューターを利用すれば容易になります。このような対話は、一対一 (Microsoft Messenger、Skype など)、一対多 (ブログ、YouTube など)、または多対多 (Facebook、フォーラムなど) の形式が考えられます。また、対話の多くは、複数のセッション上で、場合によっては何年間にもわたって行われる場合があります。

スキルの向上

人々は日常生活の中でますます多くのテクノロジを使用するようになり、使用するデバイスを変更する際にはシームレスなエクスペリエンスとなることを求めています。UI のデザインを 1 つにすれば、オフィスで電子メールを読み、帰宅する電車内でそのメールに返事を出すのが簡単になります。自宅でビデオを見ているときに外出しなければならなくなっても、スマートフォンで最後まで見たいと考えるでしょう。こんなとき、そのビデオを検索したり、中断した箇所から再開する方法を考えたりすることは望みません。また、人々は、iPhone と Android 向けの Bump アプリケーションのように、複数のデバイス間でシームレスにデータを共有することも希望しています。マルチプレイヤー ゲームでも、使用できるさまざまなデバイスの間で UI の同期を取ることが求められます。このようなシームレスなエクスペリエンスの実現が課題となるでしょう。これは技術上の問題だけでなく、複数の組織にまたがって作業を行う必要があるため、設計がますます複雑になります。

21 世紀の今後の 10 年は、ユーザー エクスペリエンスのデザインにとって新時代の到来となるでしょう。ユーザー エクスペリエンスのデザインは次第に開発作業の基本要素となり、さらに多くの開発者がこの分野の専門家になっていくでしょう。ユーザー エクスペリエンスのデザインが、ビジネスのコア コンピタンスに発展する組織もあるでしょう。設計スキルを磨く良い機会です。

Dr. Charles B. Kreitzberg はユーザビリティのコンサルティングとユーザー エクスペリエンスのデザイン サービスを提供する Cognetics Corp. (英語) の CEO です。彼は、製品のビジネス目標をサポートしつつも、ユーザーを魅了し、楽しませる直感的なインターフェイスを作成することに情熱を燃やしています。セントラル ニュージャージー在住で、パフォーミング ミュージシャンとして夜間のアルバイトをしています。