Microsoft DirectMusic Producer での DLS アーティキュレーションの作成

[アーティクル]
11/18/2008

Scott Selfon
Audio Content Consultant, Xbox Advanced Technology Group

November 2001

要約: 本稿は、Microsoft DirectMusic 用のコンテンツ作成ツールである Microsoft DirectMusic Producer のさまざまな側面を扱った一連の記事のうちの一編です。この記事では、ダウンローダブルサウンドで作成した音色でアーティキュレーションを使用する方法について説明します。

はじめに

Downloadable Sounds Level 2 (DLS2) 仕様では、DLS 音色またはリージョンを構成するウェーブテーブルデータを操作するためのさまざまなアーティキュレーションが提供されています。この記事では、これらのアーティキュレーションのいくつかが、MicrosoftR DirectMusicR Producer でどのように公開されているかを詳しく説明します。

この記事では以下のトピックを扱っています。

DLS Designer とアーティキュレーション
DLS アーティキュレーションのセットアップ
アーティキュレーションの編集用ショートカット
アーティキュレーションの削除
ノコギリ波形からのアナログシンセサイザの作成
関連情報

DLS Designer とアーティキュレーション

ウェーブの編集、音色の収集、およびアーティキュレーションの編集を含むすべての DLS コレクション編集操作は、DirectMusic Producer の DLS Designer モジュールに含まれています。アーティキュレーションは、DLS 音色の個々のリージョンや DLS 音色全体を扱う上で、高度な柔軟性を提供します。DLS Designer では、アーティキュレーションはエディタウィンドウの下半分を占めています。

図 1. 新規の音色で作成されるデフォルトのアーティキュレーション

この画面のいくつかの要素について説明しておきましょう。フレームのタイトルが Instrument Articulation であることに注目してください。DirectMusic Producer は、デフォルトの音色アーティキュレーションと、特定のノートの範囲またはリージョンのみに適用されるアーティキュレーションを区別しています。1つの音色の中に、この両方を同時に持つことができます。独自のアーティキュレーションを持たないリージョンは、音色全体のアーティキュレーションを使用します。

リージョン用のアーティキュレーションを作成するには

プロジェクトツリーで、音色の Regions フォルダを展開します。
ローカルアーティキュレーションを追加したいリージョンを右クリックします。
ショートカットメニューから [Insert Articulation List] を選択します。

図 2. プロジェクトツリーの中でのアーティキュレーションの作成

アーティキュレーションフレームのタイトルが Region Articulation に変わっていることに注目してください。この画面では、このリージョンのローカルアーティキュレーションが編集の対象となっています。他のリージョンはグローバルな音色アーティキュレーションを使い続けており、プロジェクトツリーの中や、DLS Designer の中のピアノロールの上のグラフィックスバーでそのようなリージョンをクリックすると、グローバルアーティキュレーションが表示されます。

アーティキュレーションリストには複数のアーティキュレーションが表示されることがありますが、通常は1つしか使用しません。

DLS アーティキュレーションのセットアップ

Microsoft Synthesizer はアーティキュレーションで DLS Level 2 仕様をサポートしていますが、DirectMusic Producer のアーティキュレーションはデフォルトで DLS Level 1 になります。DLS2 のアーティキュレーション機能を使用するには、そのアーティキュレーションの [DLS1] チェックボックスを選択解除します。これにより、 DLS1 の機能セットすべてが利用できるようになります。これには以下のパラメータが含まれます。

ボリュームおよびピッチエンベロープの Delay および Hold ステージ。
ビブラート低周波数オシレータ(第 2 の LFO。DLS1 は 1 つの LFO しか公開しません)。
DLS2 ローパスフィルタ。

これらのパラメータのほとんどは、[DLS Designer] ウィンドウの中で実験することができます。設定を変更した後に、音色またはリージョンがどのように再生されるのかを聴きたい場合には、次のいずれかの操作を行います。

スペースバーを 1 回押します。ウェーブがループする場合には、もう一度スペースバーを押すと停止します。
ピアノロールの中のノートをクリックすると、そのノートを聴くことができます。複数のレイヤが選択されている場合、そのベロシティでそのノートによってトリガされるすべてのレイヤのリージョンが再生されます。
MIDI キーボード上でノートを演奏します。

DLS2 仕様では、一般に、MIDI コントローラの変更によってトリガされるものを除いて、(たとえばウェーブの再生中の)リアルタイムのパラメータ調整が不可能であることに注意してください。たとえば、フィルタカットオフはコントローラ #74 を使って操作することができます。したがって、変更された値を聴くためには、DirectMusic Producer の中でウェーブを再トリガしなくてはなりません。

アーティキュレーションの編集用ショートカット

アーティキュレーションのコピー方法についての質問がよく寄せられます。プロジェクトツリーは、アーティキュレーションのためのドラッグコピー機能やクリップボード機能は持っていません。しかし、これを実現するための手段は、わかりにくいものですが、ちゃんと用意されています。

コピーしたいアーティキュレーションを、プロジェクトツリーの中で選択するか、それが属しているリージョンを選択することで、DLS Designer の中に表示します。
DLS Designer の中で、テキストボックス以外の適当な場所を右クリックします。これにより、[Copy] と [Paste] の2つのコマンドを含んでいるショートカットメニューが表示されます。[Copy] を選択します。

図 3. アーティキュレーションをコピーするためのショートカットメニュー
情報を追加したいアーティキュレーションを開きます。
もう一度、DLS Designer の中で、テキストボックス以外の適当な場所を右クリックします。ショートカットメニューから [Paste] を選択します。

リージョンを選択し、別のリージョンからアーティキュレーションを貼り付けることで、新しいリージョンアーティキュレーションを自動的に作成することはできない点に注意してください。まずプロジェクトツリーの中で新しいリージョンアーティキュレーションを作成する必要があります。リージョンアーティキュレーションをコピーし、タイトルが Instrument Articulation のままになっているフレームに貼り付けると、新しいデフォルトアーティキュレーションが作成されます。

ユーザーからの要求もあって、DLS Designer の個々のスライダには、デフォルト値に戻すためのショートカットが用意されています。CTRL キーを押しながら、スライダをクリックしてください。マウスを使わずにスライダを細かく移動したい場合は、左と右の方向キーを使用します。この際には、スライダをクリックするか TAB キーを使用して、スライダに入力フォーカスが置かれているようにします。

アーティキュレーションの削除

アーティキュレーションは不要になることがあります。たとえば、リージョンで音色アーティキュレーションのみを使用することに決めた場合、あるいはその逆に、すべてのリージョンが独自のローカルアーティキュレーションを持っており、音色全体のアーティキュレーションが不要になった場合などです。アーティキュレーションを削除するには、単にそれをプロジェクトツリーの中で選択して、DELETE キーを押します。プロジェクトツリーには空のArticulations List フォルダが残りますが、次に DirectMusic Producer で DLS コレクションを開くと、このフォルダは削除されます。

音色アーティキュレーションは、いずれかのリージョンがそれを使用している場合には削除できません。これは、リージョンが独自のリージョンアーティキュレーションを持っていないか、そのリージョンに対して [Use Instrument Articulation] が選択されている場合に起こります。

ノコギリ波形からのアナログシンセサイザの作成

最後に、アーティキュレーションがウェーブに与える影響と、1 KB ほどのサイズのきわめて小さなウェーブを使って厚みのある「アナログ」シンセサイザのサウンドを作る方法を、実際の例を使って示します。出発点となるのは、サウンド合成アプリケーションやサウンド編集アプリケーションで作成したループするノコギリ波形です。これを DLS コレクションに挿入し、音色を作成します。ただし、話を面白くするために、この同じウェーブを異なるアーティキュレーションで (2 つのリージョンの中で) 2 回使用し、より厚みのあるサウンドを作成することにします。

アーティキュレーションのセットアップは、次のように行います。

DLS 音色の中で、それぞれ別のレイヤに 2 つのリージョンを作成します。どちらも MIDI キーボード全体をカバーするようにします。

図 4. 2 つのレイヤの中の 2 つのリージョン
各リージョンにアーティキュレーションを挿入します。片方では音色アーティキュレーションをそのまま使うこともできますが、わかりやすいように 2 つのリージョンアーティキュレーションを作成することにします。

図 5. プロジェクトツリーに表示された2つのリージョンのアーティキュレーション
それぞれのアーティキュレーションに、適当に興味深い操作を加えます。たとえば、それぞれに異なる値で、ピッチエンベロープと適当なフィルタリングを追加します。
片方のリージョンのピッチを1オクターブ分だけ下げます。このためには、そのルートノートを1オクターブ高く設定し、同じ相対ノートを再生したときに 1 オクターブ低い音が鳴るようにします。

図 6. ルートノートを変更して、リージョンのピッチを変える。もう一方のリージョンのルートノートが C3 ならば、このリージョンは同じ MIDI ノートで 1 オクターブ低い音を鳴らします。
結果をチェックします。ピアノロールをクリックするか、MIDI キーボードでオーディションを行います。[Solo Layer] オプションボタンを使って各リージョンを別々にオーディションすることができますし、両方を同時に聴くこともできます。また、短いシークエンスを作成し、いくつかの MIDI パラメータを変えて試してみることもできます。たとえば、MIDI コントローラ 74 を使ってフィルタのカットオフを行ったり、mod ホイールを使用します。

また参考として、作成した DLS 音色のサイズを確認してみてください。筆者のものはたった 2.8 KB でした。アーティキュレーション情報のサイズは、通常はウェーブデータのサイズと比べれば些細なものです。また、同じウェーブを 2 回使った場合、サイズが 2 倍になることはありません。