Windows ストアアプリ用 .NET の概要

[アーティクル]
02/06/2013

.NET Framework には、C# または Visual Basic を使用した、Windows ストアアプリの作成に使用できるマネージ型のサブセットが用意されています。マネージ型のこのサブセットは Windows ストアアプリ用 .NET と呼ばれ、.NET Framework 開発者はこのサブセットを使用することで、一般的なプログラミングフレームワークで Windows ストアアプリを作成できます。Windows ストアアプリの開発に関係のない型は、このサブセットに含まれていません。

これらのマネージ型は、Windows ランタイム API の型と共に Windows ストアアプリの作成に使用します。マネージ型が System から始まる名前空間内に存在し、Windows ランタイム型が Windows から始まる名前空間内に存在する点を除いて、通常、マネージ型の使用と Windows ランタイム型の使用で違いに気付くことはありません。Windows ストアアプリ用 .NET と Windows ランタイムの両方を合わせて、C# または Visual Basic を使用した Windows ストアアプリの開発に使用できる型とメンバーの一式となります。

マネージ型とメンバーから成るこのサブセットは、Windows ストアアプリの開発に焦点を絞って設計されています。そのため、以下のものは除外されています。

Windows ストアアプリの開発に適用できない型とメンバー (console 型や ASP.NET 型など)。
旧式の型と従来の型。
Windows ランタイム型と重なる型。
オペレーティングシステム機能をラップする型とメンバー (System.Diagnostics.EventLog やパフォーマンスカウンターなど)。
混同しやすいメンバー (I/O 型の Close メソッドなど)。

.NET Framework デスクトップアプリで使用した型が Windows ストアアプリ用 .NET に存在しない場合もあります。このような場合、代わりに Windows ランタイムの型を使用できます。たとえば、System.IO.IsolatedStorage.IsolatedStorageSettings クラスは Windows ストアアプリ用 .NET には含まれていませんが、アプリケーション設定を保存する類似した機能が Windows.Storage.ApplicationDataContainer クラスに用意されています。必要となる可能性がある一般的な変更の例は、「Converting your existing .NET Framework code (既存の .NET Framework コードの変換)」セクションに挙げられています。

C# または Visual Basic を使用する Windows ストアアプリの作成時には、Windows ストアアプリ用 .NET のアセンブリセット全体がプロジェクト内で自動的に参照されます。このため、付加的な処理をせずに、Windows ストアアプリ用 .NET でサポートされている型はどれでもプロジェクトで使用できます。Windows ストアアプリ用 .NET と Windows ランタイムで用意されている名前空間の組み合わせの一覧 (機能領域別にグループ化されたもの) については、「.NET Framework 名前空間と Windows ランタイム名前空間」セクションを参照してください。

.NET Framework サブセットに含まれている名前空間と型の一覧については、「Windows ストアアプリ用 .NET - サポートされる API」を参照してください。

汎用性のあるクラスライブラリプロジェクトを作成し、Windows ストアアプリから使用できる .NET Framework ライブラリを開発することもできます。このプロジェクトには、対象プラットフォームの 1 つとして、Windows ストアアプリ用 .NET も含める必要があります。汎用性のあるクラスライブラリは、各種プラットフォーム (Windows Phone アプリ、デスクトップアプリ、Windows ストアアプリなど) のアプリから使用できるクラスを開発する場合に特に便利です。「.NET Framework を使用したプラットフォーム間の開発」を参照してください。

このトピックでは、次の内容について説明します。

既存の .NET Framework コードの変換
型を変換する拡張メソッド
.NET Framework 名前空間と Windows ランタイム名前空間

既存の .NET Framework コードの変換

一般に、既存の .NET Framework アプリを Windows ストアアプリに単純に変換することはありません。新たなユーザー体験を提供するために .NET Framework アプリを設計し直します。しかし、新しい Windows ストアアプリで使用できるように、既存の .NET Framework アプリの一部を変換することもできます。既存の .NET Framework コードを変換する場合は、必要に応じて Windows ストアアプリで次の変更を加える必要があることに注意してください。

UI の変更
I/O の変更
ストレージの変更
ネットワークの変更
スレッドの変更
リフレクションの変更
セキュリティの変更
リソースの変更
例外の変更
WCF の変更
.NET Framework の一般的な型の変更

UI の変更

Silverlight ベースのアプリまたは Windows Phone アプリから UI コードを変換する場合は、多数の同じ UI 型を使用できますが、型は現在 System.Windows 名前空間ではなく Windows.UI.Xaml 名前空間に配置されています。これらの新しい UI 型は以前の .NET Framework UI 型に似ていますが、異なるメンバーがいくつか含まれています。

以前の型	新しい型
System.Windows.* 名前空間の UI 型	Windows.UI.Xaml.* 名前空間の UI 型 (たとえば、Border クラスは Windows.UI.Xaml.Controls 名前空間に配置されている)

System.Windows.* 名前空間の UI 型

Windows.UI.Xaml.* 名前空間の UI 型

(たとえば、Border クラスは Windows.UI.Xaml.Controls 名前空間に配置されている)

UI コードの移植の詳細については、「Windows Phone 7 アプリから XAML への移行」を参照してください。

I/O の変更

I/O 型には、非同期プログラミングモデルにおける新しい await キーワードをサポートするための新しいメンバーが含まれています。

以前の型	新しい型
System.IO.Stream.BeginRead メソッドと EndRead メソッド	System.IO.Stream.ReadAsync メソッド例については、「ReadAsync(array<Byte[], Int32, Int32)」を参照してください。
System.IO.Stream.BeginWrite メソッドと EndWrite メソッド	System.IO.Stream.WriteAsync メソッド例については、「WriteAsync(array<Byte[], Int32, Int32)」を参照してください。
I/O クラスの Close() メソッド	I/O クラスの Dispose() メソッド。または using (C#) または Using (Visual Basic) ステートメント内の I/O オブジェクトを宣言してインスタンス化することにより、そのオブジェクトを確実に破棄します。次に例を示します。 `using (StreamReader sr = new StreamReader(await passedFile.OpenStreamForReadAsync())) { while ((nextLine = await sr.ReadLineAsync()) != null) { contents.Append(nextLine); } }` `Using sr As StreamReader = New StreamReader(Await passedFile.OpenStreamForReadAsync()) While (nextLine = Await sr.ReadLineAsync()) <> Nothing contents.Append(nextLine) End While End Using`
System.IO.File.ReadAllText メソッド	Windows.Storage.PathIO クラスの ReadTextAsync メソッド
ファイルを取得して開くコード	`public static async void ReadFileSamples() { // Read a file from package StorageFolder packageFolder = ApplicationModel.Package.Current.InstalledLocation; StorageFile packagedFile = await packageFolder.GetFileAsync("FileInPackage"); // Read a file from AppData StorageFolder localFolder = ApplicationData.Current.LocalFolder; StorageFile localFile = await localFolder.GetFileAsync("FileInAppData"); }` `Public Async Shared Sub ReadFileSamples() ' Read a file from package Dim packageFolder As StorageFolder = ApplicationModel.Package.Current.InstalledLocation Dim packagedFile As StorageFile = Await packageFolder.GetFileAsync("FileInPackage") ' Read a file from AppData Dim localFolder As StorageFolder = ApplicationData.Current.LocalFolder Dim localFile As StorageFile = Await localFolder.GetFileAsync("FileInAppData ") End Sub`

ストレージの変更

System.IO.IsolatedStorage クラスを使用する代わりに、Windows.Storage 名前空間の型を使用してローカルのデータとファイルを保存します。

以前の型	新しい型
System.IO.IsolatedStorage.IsolatedStorageFile クラス	Windows.Storage.ApplicationData クラスの LocalFolder プロパティ `ApplicationData.Current.LocalFolder`
System.IO.IsolatedStorage.IsolatedStorageSettings クラス	Windows.Storage.ApplicationData クラスの LocalSettings プロパティ `ApplicationData.Current.LocalSettings`

以前の型

新しい型

System.IO.IsolatedStorage.IsolatedStorageFile クラス

Windows.Storage.ApplicationData クラスの LocalFolder プロパティ

ApplicationData.Current.LocalFolder

System.IO.IsolatedStorage.IsolatedStorageSettings クラス

Windows.Storage.ApplicationData クラスの LocalSettings プロパティ

ApplicationData.Current.LocalSettings

詳細については、「アプリケーションデータ」を参照してください。

ネットワークの変更

以前の型	新しい型
System.Net.WebClient クラス	HTTP 要求の送信と HTTP 応答の受信を行う System.Net.Http.HttpClient クラスまたは大量のデータのアップロードとダウンロードのための Windows.Networking.BackgroundTransfer 名前空間の型
System.Net.Sockets 名前空間の型	Windows.Networking.Sockets 名前空間の型
相対 URI (Windows ランタイム型に渡される場合)	絶対 URI 詳細については、「Windows ランタイムへの URI の引き渡し」を参照してください。
UriFormatException 例外をキャッチする例外処理コード	UriFormatException の親クラスである FormatException 例外をキャッチするコード

スレッドの変更

.NET Framework スレッドメンバーの一部が変更され、一部の型が現在 Windows ランタイム API で使用できます。

以前の型	新しい型
System.Threading.Thread.MemoryBarrier メソッド	System.Threading 名前空間の Interlocked.MemoryBarrier メソッド
System.Threading.Thread.ManagedThreadId プロパティ	System 名前空間の Environment.CurrentManagedThreadId プロパティ
System.Threading.Thread.CurrentCulture プロパティ	System.Globalization 名前空間の CultureInfo.CurrentCulture プロパティ
System.Threading.Thread.CurrentUICulture プロパティ	System.Globalization 名前空間の CultureInfo.CurrentUICulture プロパティ
System.Threading.Timer クラス	Windows.System.Threading.ThreadPoolTimer クラス
System.Threading.ThreadPool クラス	Windows.System.Threading.ThreadPool クラス
作業をプールのキューに配置するコード	`Task.Run(() => { // work goes here });` `Task.Run( Sub() ' work goes here End Sub)`
作業をプールのキューに配置し、完了を待機するコード	`await Task.Run(() => { // work goes here });` `Await Task.Run( Sub() ' work goes here End Sub)`
長時間実行される作業項目を作成するコード	`Task.Factory.StartNew(() => { // work goes here }, TaskCreationOptions.LongRunning);` `Task.Factory.StartNew( Sub() ' work goes here End Sub, TaskCreationOptions.LongRunning)`

リフレクションの変更

System.Type クラスのほとんどのメンバーは、System.Reflection.TypeInfo クラスに移動しました。TypeInfo オブジェクトは、System.Reflection.IntrospectionExtensions.GetTypeInfo(System.Type) メソッド (Type の拡張メソッド) を呼び出すことで取得できます。

以前の型	新しい型
type.Assembly	type.GetTypeInfo().Assembly
type.GetMethods(BindingFlags.DeclaredOnly)	type.GetTypeInfo().DeclaredMethods
type.GetMethod("MethodName", BindingFlags.DeclaredOnly)	type.GetTypeInfo().GetDeclaredMethod("MethodName")
type.GetNestedTypes()	type.GetTypeInfo().DeclaredNestedTypes
System.Delegate.CreateDelegate メソッド	MethodInfo.CreateDelegate メソッド

詳細については、MSDN ライブラリの「Windows ストアアプリのための .NET Framework のリフレクション」を参照してください。

セキュリティの変更

セキュリティ、認証、および暗号化の各操作の型の多くは、Windows ランタイム型を介して使用できます。Windows ストアアプリに使用できるセキュリティ名前空間の完全な一覧については、このトピックで後述するセキュリティ名前空間の一覧を参照してください。

リソースの変更

Windows ストアアプリの場合、デスクトップアプリで使用されるハブアンドスポークモデルではなく、単一のリソースファイルを作成します。また、System.Resources 名前空間ではなく、Windows.ApplicationModel.Resources 名前空間と Windows.ApplicationModel.Resources.Core 名前空間にあるリソースの種類を使用します。

詳細については、「Windows ストアアプリでのリソースの作成と取得」を参照してください。

例外の変更

Windows ストアアプリ用 .NET に含まれていない例外がマネージ型によってスローされることもあります。このような場合は、含まれていない例外の親クラスをキャッチできます。たとえば、デスクトップアプリでは UriFormatException 例外をキャッチして無効な URI を処理しますが、Windows ストアアプリでは FormatException 例外をキャッチします。これは、UriFormatException が Windows ストアアプリ用 .NET に含まれていないためです。FormatException は UriFormatException の親クラスです。

WCF の変更

Windows ストアアプリでは、Windows Communication Foundation (WCF) クライアント機能を利用して WCF サービスからデータを取得できます。ただし、データを提供するために WCF サービスを作成することはできません。

.NET Framework の一般的な型の変更

以前の型	新しい型
System.Xml.XmlConvert.ToDateTime メソッド	XmlConvert.ToDateTimeOffset メソッド
System.ICloneable インターフェイス	適切な型を返すカスタムメソッド
System.Array.AsReadOnly メソッドと System.Collections.Generic.List<T>.AsReadOnly メソッド	次のように作成される、System.Collections.ObjectModel.ReadOnlyCollection<T> クラスの新しいインスタンス `new ReadOnlyCollection<string>(selectedList)` `New ReadOnlyCollection(Of String)(selectedList)`

以前の型

新しい型

System.Xml.XmlConvert.ToDateTime メソッド

XmlConvert.ToDateTimeOffset メソッド

System.ICloneable インターフェイス

適切な型を返すカスタムメソッド

System.Array.AsReadOnly メソッドと System.Collections.Generic.List<T>.AsReadOnly メソッド

次のように作成される、System.Collections.ObjectModel.ReadOnlyCollection<T> クラスの新しいインスタンス

new ReadOnlyCollection<string>(selectedList)

New ReadOnlyCollection(Of String)(selectedList)

型を変換する拡張メソッド

ほとんどの場合、特別な考慮や変換をせずに、.NET Framework 型と Windows ランタイム型を一緒に使用して Windows ストアアプリを開発できます。ただし、.NET Framework 型と Windows ランタイム型の相互作用をシンプルにするために、.NET Framework によって拡張メソッドが用意される場合もあります。これらの拡張メソッドは次のクラスのものです。

System.IO.WindowsRuntimeStreamExtensions – マネージストリームと Windows ランタイム内のストリーム間の変換用。
System.IO.WindowsRuntimeStorageExtensions – Windows ランタイムファイルおよびフォルダーをマネージストリームとして開くために使用される。
System.Runtime.InteropServices.WindowsRuntime.WindowsRuntimeBufferExtensions – IBuffer との間で変換するために使用される。

.NET Framework 名前空間と Windows ランタイム名前空間

以下のセクションでは、Windows ストアアプリ用 .NET と Windows ランタイムに用意されている名前空間を機能別に示します。

コレクション

コア

データとコンテンツ

デバイス

診断

ファイルとフォルダー

グローバリゼーション

グラフィックス

MEF (Managed Extensibility Framework)

次の名前空間をインストールするには、Visual Studio 2012 でプロジェクトを開き、[プロジェクト] メニューの [Manage NuGet Packages] を選択し、Microsoft.Composition パッケージをオンライン検索します。

メディア

ネットワーク

プレゼンテーション

印刷

リフレクション

リソース

セキュリティ

ソーシャル

スレッド

UI オートメーション

ユーザー操作

言語およびコンパイラ

参照

概念

Windows ストアアプリ用 .NET - サポートされる API

C++ および Visual Basic での Windows ランタイムコンポーネントの作成

その他の技術情報

Windows ストアアプリおよび Windows ランタイムのための .NET Framework サポート

Windows ストア アプリ用 .NET の概要