ちょっとひと言

UX の 10 年

David Platt

David Plattある 10 年間を象徴して名前が付けられる場合、その 10 年は 3 の付く年に始まることが多いに思います。たとえば、60 年代 (「自由恋愛の 10 年」) は 1963 年のジョン F. ケネディ暗殺、70 年代 (「個の 10 年」) は 1973 年の石油危機、80 年代 (「レーガンの 10 年」) は 1983 年の『ジェダイの帰還』というぐあいです。

2010 年代も 3 の付く年になり、名前を付けるタイミングが来ています。ユーザー エクスペリエンス (UX) はソフトウェアの成功と失敗を左右する要素になりました。そのため、この 10 年を「ユーザー エクスペリエンスの 10 年 (Decade of User Experience)」、略して DoUX (フランス語で「心地良い」という意味もある) と宣言します。

劣悪な UX は 20 年前に捨て去ったかもしれませんが、現在の顧客は当時以上のものを求めており、UX の標準は絶えず現れています (ひと言で言えば iPhone です)。使い方がわからないコンピューター、使い方のトレーニングに高い費用がかかるコンピューター、ユーザーの誤解を招くプログラムが原因で高くつく間違いが起こるようなコンピューターは、高価なただの箱にすぎません。

企業のレベルで UX に注ぐ努力を増やすことも必要ですが、兵士全員が戦場での応急処置を覚える必要があるように、自分の主な任務でないとしても、各開発者のレベルで UX に関する知識を身に付けることが必要とされています。1980 年代には関数、1990 年代 (「ジェネレーション X の 10 年」) にはオブジェクト、2000 年代 (「ミレニアムの 10 年」) には Web サービスの理解が必須だったように、今日は UX の理解が欠かせません。大学が UX に関する授業なしでコンピューター サイエンスの学位を授けるとしたら、それは業務上の過失と見なされます。

多くの開発者やアーキテクトは、UX を理解する必要はないと考えています。なぜ彼らがそのようなことを言うのか、なぜ彼らが間違っているのかをこれから説明します。

プロジェクトが低レベルなので UX は重要ではない

おかしな話です。どのプロジェクトも、どこかで人間がユーザーとして関わってきます。プログラムによる Web サービスでも、エラー通知、インストールと構成、ステータスとパフォーマンス監視ダッシュボードなどが必要です。だからこそ、プロジェクトに UX が少なくても、その UX が適切に機能する必要があります。

マーケティング部門が UX を決める

マーケティング部門と良い関係を築くのは賢明です。確かに、マーケティング部門は顧客が苦労している点を感じて開発者に知らせてくれます。

しかし、マーケティング担当者は対話操作のデザイナーではありません。顧客の満足度と生産性を高める最初のヒント (「アプリがクラッシュすると作業が失われる、という不満が出ている」) は与えてくれますが、そこから何をどうするかは開発者次第です。どれくらいの頻度で発生するか。どのように検出して測定するか。解決するには、自動保存するか、ロールバックするか。その場合の頻度はどれくらいで、構成可能にするかどうか。これらの質問をマーケティング部門にしているところを想像してください。マーケティング部門が UX を決めていると本当に言えるでしょうか。違います。彼らは最初に注意点を伝えてはいますが、決めているのは開発者です。

開発者は技術サポート部門とも対話すべきです。この部門は、愛想の良いマーケティング部門よりもはるかに早く、ストレートに顧客の悩みを察知します。

UX を専門的に扱うグループがある

大企業の中には、すべてのユーザー操作を承認する UX 設計グループがある企業もあります。このような企業に勤めていれば、眼科医などの他の分野の超専門家と同じように、そのグループの時間が限られていることをご存知でしょう。簡単な予定を取り付けようとしたら、半年後になると言われることもあります。このグループは、継続的に調査することも、繰り返し開発者を支援することもありません。開発者は、非常に限られた接触でグループの話を理解し、その方針を日々実行して、グループから得られたわずかな知識を最大限活かさなければなりません。

また、グループの時間は (当然ながら) 会社の主要な社外向けプログラムに費やされます。社内向けアプリケーションや第 2 層アプリケーションに使う時間はありません。皮肉なことに、企業が優れた UX を重んじているために、そのようなアプリケーションにも高い標準が課されています。しかし、この要求を満たすためのスキル セットやリソースを上司は開発者に提供していないのではないでしょうか。

UX は "アーティスト" のものである

"グラフィック" デザイナーとしても知られますが、より正確に呼ぶならば、"装飾家" です。このような人について以前コラムに書いたことがあります (msdn.microsoft.com/magazine/hh394140、英語)。UX の試合は、ほとんどの場合、装飾家が出てくる前に負けが決まっています。

開発者全員が UX の理解を求められる時代になりました。大学でも、私の講義 (今年 10 月にボストンまたはロンドンで開催、idesign.net (英語) 参照) の 1 つでも、一般向け講座でもよいので、とにかく UX について理解してください。少なくともこれからの 10 年間、UX を心地良いものにしましょう。

David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。